第92章 夜露死苦
3人は部屋の中央で横たわる“私”を見て顔をこわばらせた。
「……これは」
「うん、鬼だね」
陽明くんがはっきりと言った。
「お前も生きていたのか。」
愈史郎さんは“私”の枕元で丸くなっていた茶々丸の背中を撫でた。茶々丸は久しぶりの再会に驚いているのか少し興奮気味に飛び上がっていた。
「……茶々丸は、彼女と一緒にずっと山の上の神社にいたんです。」
「そうか…。ありがとう、お前がそばにいてくれたんだな。」
茶々丸は嬉しそうに愈史郎さんと珠代さんに擦り寄っていった。
「感動の再会もいいですが、現実の話もしましょう。今後をどうするか考えないと…もう時間がありませんし。」
少し湿っぽい空気になったのを陽明くんがバッサリと切る。
「確かにそれはそうだが、時間がないとはどういうことだ?」
「皆さん、ドッペルゲンガーってわかります?」
陽明くんはニコニコと毒のない顔で言った。
「正直、よくないんですこういうの。同じ人間が同じ時間にいるって。」
「……え?私、それだと死ぬよね?」
ドッペルゲンガーってあれじゃないか。その、出会ったら死ぬっていう、あのホラー的なアレほらあれだよあれ。
「言っておきますが、あなたが霧雨ではないのは明らかです。」
「えっ」
「…言う機会がなかったものですから。」
陽明くんは気まずそうに顔を逸らした。
「あなたは特別な存在と言える。みんな誰かしらの器であるのに、あなたは器ではない。さらに言うなら、器の範疇を超えている。」
「…おお、難しそうな話だね。」
「単純な話、あなたは霧雨であってそうでないということです。」
「単純じゃないね!!!」
陽明くんはさらっというけど、私は全く理解ができなかった。
「あなたの中には確かにさんはいます。そしてあなたもさんだ。しかしそれは一部に過ぎない。」
「…一部……?」
「あなたは霧雨の最後を見ていない。」
その声は冷たくて、背筋がヒヤリとした。