第92章 夜露死苦
しかし、元に戻ったら戻ったで困ることもある。
「しはんしはんしはん」
「離れろよ無一郎!!お前だいぶ気持ち悪いって!!」
有一郎くんが頑張って引き剥がそうとしているが、無一郎くんは私に抱きついて離れようとしなかった。
もう諦めて私は無一郎くんの背中に手を回しつつ、珠世さんに向き直った。
「すみません、お忙しいでしょうにはるばる来ていただいて…」
「師範、他の人と喋らないで」
「……あの…一度席を外しましょうか?」
「いえ大丈夫ですよ。」
よしよしと頭を撫でると、嬉しそうにさらに抱きついてきた。
「無一郎くん」
「師範…」
「いい加減にしようか。」
声を低くしてそういうと、無一郎くんは弾かれたように私から離れて有一郎くんの後ろに隠れた。
その姿はクウーンと弱々しくなく犬のようだった。
……前世でだいぶ厳しくあたったからな…。ごめんね無一郎くん。
「うっ、師範、僕の師範」
「……お前はもうほんと、諦めろって」
有一郎くんがよしよしと慰めているが、どうもまだ諦めないようで怖い顔で実弥を睨んでいた。
「…じゃあ、話を進めますけど……。」
ひとまず放置してみんなと向き合う。
「とりあえず彼女に会ってもらった方がいいかしらね。」
「そうだな。それが1番早い。」
「…そういえば桜くんは?」
その名前を聞いた途端、巌勝は顔をしかめた。
「ソイツがいちばんの問題だった。」
「どういうこと?」
「それは私から説明しましょう。」
そう言ったのは意外にも珠世さんだった。
「…ですが、まずは鬼の霧雨さんを見させてください。」
「わかりました。」
いつまでも外で話しているわけにもいかず、私は珠世さんと愈史郎さん、そして陽明くんを連れて彼女が眠っている部屋に入った。
無一郎くんが
「なんで僕はダメなの!!!」
って騒いでいたので説得に時間がかかってしまったが。