第92章 夜露死苦
「つまるところ、霧雨は一つの体の中に二人いたってことです。」
うん。わからん。
「なるほど、多重人格とか言うやつだな。」
「え」
「お前、変なやつだとは思っていたがやはり…」
「…道理で」
「待ってください、なんで二人が納得してるんですか。」
うんうんと頷く珠世さんと愈史郎さん。いったい何を理解したのだろう、私はちっともわからないのに…。
「多重人格…かも、しれないですね。」
「えーーーと。」
「元の霧雨…大正時代の時点で、霧雨さんは器であったということです。」
「………」
これ、ついていけていないの私だけ?すごく難しく感じるんだけど私だけ?二人とも理解できてるの??
「大正時代に生まれた霧雨は、誰かの生まれ変わりだったというわけだな。」
「その通り。」
愈史郎さんが幼子に言い聞かせるようにゆっくりと説明してくれた。それに対して陽明くんがにっこり微笑む。
「え!?私が!?」
「はい。…気づいてなかったんですね。」
陽明くんは、スッと目を細めた。
「あなたは阿国の生まれ変わりだった。」
オロオロと慌てふためいていたが、その冷たい声でなんとか正気に戻る。
「そして阿国は、また別の人間の生まれ変わりだった。」
「……え?」
「その人は長い時代を繋いできた輪廻転生の始まりの人間です。阿国も、阿国の子孫であるあなたも、結局は“始まりの人間”の生まれ変わり…その器に過ぎなかったというわけです。」
つまりね、と陽明くんは続ける。
「あなたのその顔と瓜二つの全く同じ顔を持つ人間は3人存在した。」
「3人?…ってことはあと2人?阿国以外にもいるってこと…?」
「ええ。どういうわけか全員、同じ声、同じ顔、同じ背丈。……普通は、少し変化が見えるモノなんですけどね。」
陽明くんはぐっと拳を握りしめる。
「霧雨、霞守阿国……。そして最後は。」
その答えは。
「産屋敷遙子。平安時代、俺の妻だった人です。」