第92章 夜露死苦
実弥を振り返ると、とても不服そうな顔はしていたが無一郎くんに文句を言うことはなかった。
そうか、実弥って他人にどう思われようが興味のない人だった。
「…無一郎くん」
「あんコラ」
「私のため…なのかな。実弥の真似をするという手段はともかく、その気持ちは嬉しいんだけど私はありのままの無一郎くんが好きだな。」
そう言うと、無一郎くんはムッとしたように頬を膨らませた。
「好きなんて絶対嘘だ。だって師範は僕にドキドキしないし男の子って思ってないんだもん。」
「あの…ラブじゃなくてライクの方……」
「………」
「そ、そんなにむくれないで…」
無一郎くんは頑なだった。
……一体どうしてこうなってしまったんだろう。
「は不死川と結婚したと言い聞かせても聞く耳を持たなくてな。」
「結婚したなら離婚する可能性があるじゃん。」
「この通りだ。」
叔父である巌勝もお手上げなようだった。
…なるほど、そういう発想に辿り着いたのか。
「無一郎くん」
「なんですか。やっぱり僕、こっちの方が格好いい?」
「ううん、そうじゃなくてね。」
私は自分より少し高い無一郎くんの顔をじっと見つめた。
「実弥の真似なんてしなくても、無一郎くんはそのままで格好いい男の子なんだってこと、私は知ってるよ。」
なるべくはっきりと自分の気持ちを伝えると、無一郎くんはしばらく考え込むようなそぶりを見せた。。
「…本当?」
「うん。」
「僕ちゃんと格好いい男の子ですか?」
「うん。そう思うな。」
「不死川さんより?」
そうきたか、と思わず笑ってしまった。無一郎くんは笑う私を見て不満そうに唇を尖らせた。
「自分ではどう思うの?」
試しにそう聞いてみると、無一郎くんは黙り込んでしまった。
「やっぱり僕もうやめる。」
しばらくして話し始めたかと思えば、無一郎くんは全く似合っていなかったサングラスを外した。
うん、そうした方が絶対にいいと思う。