第92章 夜露死苦
次の日。
朝一番に様子を見に行ったが、猫に囲まれた彼女は全く目が覚める様子がなかった。
そしておやつの時間だからと実弥が出してくれた豆大福をもぐもぐと食べていると、玄関の方から音がした。
「誰か来たかァ?」
「巌勝かな」
以前なら気配でわかっただろうに、今の私にはこんなことすらわからない。
豆大福を置いて立ちあがろうとすると、実弥が私の手を掴んだ。
「俺が行ってくるからお前はおとなしくソレ食ってろ。」
「う、うん」
確かにずっと食べていたいくらいこの豆大福は美味しいけど…。
しかしそうこうしている間に実弥は玄関へ向かってしまった。最後の一つに手を伸ばした時、私はハッと顔を上げた。
違う違う、私は何を呑気におやつを食べているんだ。今は緊急事態中の緊急事態。
実弥に頼りっぱなしではいけない。まずはこの無気力な生活から抜け出さないと…!!
意を決して立ち上がり、玄関の方へ向かうと…。
「実弥、やっぱり私も……え?」
そこには目を疑う光景が広がっていた。
玄関の前で立ち尽くす実弥と、呆れ顔の巌勝。その隣に陽明くんと珠世さん、そしてなぜか愈史郎さんと有一郎くんの姿が。
1番意味がわからなかったのはその中央で自信満々に腕を組んで仁王立ちをしている無一郎くんだ。おまけになぜかサングラスをかけている。
「俺は時透無一郎!!師範…いや、霧雨の姉御の舎弟だぜ!!!」
「えっ」
突然自分の名前が出てきて思わず声を上げてしまった。そしたら全員の視線が私に集中した。
「そういうわけで夜露死苦ゥ!!!!!!」
急にしゃがんで下から見上げるように凄んできたので更に意味がわからないことになっていた。
しかし、みんなの視線は依然として私に集中したままだったのでどうやらこの事態は私がどうにかするしかないらしい。
「無一郎くん、一体どうしたの?何があったの??」
みんながさざなみのように引いている中、恐る恐る声をかけると無一郎くんは怖い顔をやめて笑顔になった。
「しは…姉御ォーーーーー!!!」
姉御???
まあ、なんて呼んでもらってもいいんだけどさ…。