第92章 夜露死苦
「!お前はさっさと風呂入れよ!!泥まみれなんだから!!」
勝手に自己嫌悪に陥っていると、実弥の怒鳴り声が聞こえてきた。…おかげで現実に戻れた。
「はい、ただいまー」
慌てて腰を上げる。
最後にもう一度彼女を振り返ると、やはり寝たままなのでほっと胸を撫で下ろした。
ちゃっちゃと支度をすませてお風呂に向かう。泥汚れはあらかた落としたけど、ところどころ細かい汚れがあっていつもより時間がかかった。
髪には葉っぱとかついてた。最悪すぎる。
はあ、とため息をついてさっさと風呂から上がる。
タオルで髪をふきながら実弥がいる部屋に向かい、一言声をかける。
「上がった」
「おー」
…特にやることないし彼女の様子見とくか。起きた時に混乱されても困るしな。
そう思ってまた彼女の元へ行こうとしたのだが。
「おい待て!!!!!」
「っ!?」
怒った声が聞こえてきて振り返ると、目を釣り上げた実弥がいた。
「え…何?お風呂入っただけなんだけど…。」
「本当に風呂入った“だけ”だからだろ!!」
そう言うと実弥は洗面台に走り、ドライヤーを持って戻ってきた。
「座れ」
「いや「座れ」…はい」
有無を言わさぬ言動に慌てて腰を落とす。
「もう春だけどまだ寒いんだから髪くらいかわかせ。」
「…すいあせん」
ドライヤーから生ぬるい風がブオーと吹いて、実弥が丁寧に私の髪をかわかしていく。乱暴なようで優しい手つきでわしゃわしゃされているうちに私の髪はすぐにかわいた。
「ありがと。」
「待てや。」
立とうとすると、実弥に腕を掴まれた。
「そのままじゃボサボサだろうが。」
そう言う実弥の手には櫛が握られていた。
「え……どうせ寝て起きたらボサボサになってるんだよ。今とかして何か意味ある?」
「俺の目の前にいるお前が今かわいくなる。」
「いらねーーーーーーーーーーーーーーーーーーー副作用だこと」
私は最後まで拒否したのだが、実弥は全く私の意見を聞き入れてくれなかった。
加えて髪に色々塗りたくられたので最終的にサラサラのトゥルントゥルンになった。
よくわかんないけど実弥がすごく満足そうだった。