第92章 夜露死苦
それに反応して二人で飛び上がり、赤ちゃんのいる部屋へ向かう。
「ふえええ、ふええ、うえぇ、ああん、あああああああああん」
「おうおう、どうしたどうしたァ」
実弥は慣れた手つきで赤ちゃんをあやす。その隣で私は音のなるおもちゃを適当に振っていた。
「…うん」
おもちゃを置いて、私は隣の部屋に移動した。
赤ちゃんのお世話に関しては私より実弥の方が良いんだろう。それなら私は彼女の様子を見ようかな。
気配で勘づかれてしまうだろうが、ひとまずコソコソと音を立てないように部屋に入る。
畳の上で眠る彼女は、もう死んでいるみたいだった。それでもちゃんと息をしているようで、胸が一定のリズムで上下していた。
その横にそっと腰を下ろす。
見れば見るほど自分に見えてきて奇妙だった。
(…私が近づいても起きない…ってことは、かなり疲弊してるのね。)
頬に少し泥がついていたので、そっと拭った。
恐らく眠ることで回復しようとしているのだろう。
正直、私にもわからない。生かすべきか、殺すべきか。
『生きたい』と言われても、『死にたい』と言われても、私は肯定も否定もできない気がする。
でも斬れと言われればきっと私はできる。ためらいはない。
だけどもう誰も私にそんな命令はしないだろう。だって誰も鬼殺隊ではないのだから。
(分からないよ、みんな……。)
祈るように、ぎゅっと自分で自分の手を握りしめる。
こんな時でも私は他人にすがるのだろうか。
自分の行く末くらい、自分で決められはしないのか。
でも、でも、私、もう答えが出てしまっているの。
この子は山にいた方が幸せなのだろうか、いや、でも、それだとひとりぼっちだ。
自分が一人なのはかまわないのに、この子が一人なのは耐えられないほど苦しい。
どうしたらいいのだろう、私はどうしたいのだろう。
矛盾だらけの自分が嫌になる。
こんな私が嫌になる。