第92章 夜露死苦
ご飯を食べ終えると、巌勝は席を立った。
「さて、私は帰るぞ。明日から忙しくなりそうだからな。」
「…そう。」
「なんだその顔。」
いや、なんていうか。
「あなたがいなくなると気まずいわ。」
「…はあ、そんなことか。」
実弥に聞こえないようにコソコソと耳打ちすると、巌勝も小声で返してきた。
「結婚までしておいて何を気まずいことがある?」
「だって色々あったしまだ一緒にいるの気まずいんだもん。」
「自業自得だろう。色々あったのは誰のせいなんだ。」
「私だけども。」
「………いいか、。」
巌勝は声を低くして言った。
「明日、なるべく急いで戻ってきてやる。それまでに関係が修復できるように頑張ってみろ。」
「頑張るって、どうやって?」
「…それは自分で考えろ。」
「やべぇ死にたい」
「まだ言うかコイツ」
そんなことを話していると、後ろから手が伸びてきてベリッと巌勝から引き延ばされた。
「距離が近い離れろ」
「実弥」
「10秒以上隣に並んでんじゃねぇはっ倒すぞ」
え、それは生きている限り無理では?????
「ごめんね、怒らないで?」
手をぎゅっと握り合わせて上目遣い。
…実弥は大体のことはこれで許してくれるんだよね。
「……怒ってはねぇよ」
急に気まずそうに顔をそらされた。
ふふふふ作戦勝ち。
「…では私はもう行くぞ。明日、用事を済ませたらまた戻ってくる。」
「うん、ありがとう。またね。」
「せいぜい苦労することだ。」
最後に捨て台詞みたいなことを言われたが、やはりこれが彼の優しさなのだろう。
「……ずるい男。」
まあ、阿国の気持ちがわからないわけでもない。
でもかと言って好きになるかと言えばならない。本当にずるい。
…ああ、本当に、あなたで良かった。私ってば良い男に殺されたかもね。
「ああいうのがタイプかよ。」
私が干渉に浸っていると、後ろから恨めしそうな声が聞こえた。
「いつも言ってるけど、実弥もタイプじゃないからね。」
「なんでだよ。」
「顔が犯人面。」
自分で言っておきながら堪えきれず、プッと吹き出す。
実弥は怒って何か言おうとしたけど、その時玄関まで届くほどの大きな赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。