第92章 夜露死苦
記憶の中の珠世さんは眩しくて、あの微笑みを思い出すために胸が締め付けられる。
「珠世さんが、最終決戦の前に開発した薬のことよ。禰󠄀豆子ちゃんもそれで人間に戻った。茶々丸は珠世さんが鬼にした猫だし、私は桜くんの薬で鬼になったから…。
珠世さんと桜くんに相談するのがいいのかもしれない。桜くんも珠世さんの研究を手伝っていたんだもの。」
「……この猫が鬼?」
実弥は知らなかったのか目を見開いた。
…確かに、見た目じゃわからないかも。
「ああ!!こいつ、あん時の猫か!!」
「あ、思い出した?」
「なんかしらねぇけど、この猫の薬で俺たち助けられたんだ。」
確かに、あの時は説明してる時間なんてなかったから知らなくて当然か。
「そうね。その薬も一緒に作ってたけど…。私だけじゃ再現は難しいかな。」
「ならば、彼女と茶々丸のことは珠世や桜に任せてみるのがいいかもしれん。」
「…それまではどうすんだよ。」
実弥はうんざりしたように言った。
「山から引き摺り下ろしたのはお前だ。お前が決めろ。」
巌勝はきつい言い方をするようだが、それは彼の優しさでもあった。
それならば遠慮なく決めさせてもらおう。
「分かった。」
私はうん、と頷く。
「ここで面倒を見るよ。それで、明日にでも桜くんと珠世さんに話をつけてくる。」
「おい待て、お前そうやってまた無茶を…。」
「無茶じゃないよ。大丈夫だから。」
「違う、一人でやろうとすんなって言ってんだ。」
実弥はぐいっと詰め寄ってきた。
「いくらでも協力してやるから、頼れ。」
「……………」
私はじっと巌勝を見上げた。
「…私は一度陽明の所へ行こう。そのついでに桜と珠世のところに寄ってくる。」
「え」
「この家には猫も、彼女も、何より赤子もいる。お前はここを動くな。」
呆れたように言われて、私は部屋の隅で眠る赤ちゃんに目を向けた。
「分かった。じゃあ…お願いね。」
「…ああ。」
頼れるというかなんというか。
私ってばいつも周りに助けられている。
………本当に恵まれている。