第92章 夜露死苦
彼女だけでなく、茶々丸も問題だ。
…茶々丸……
「あ!」
思わず声が出た。
とあることをまた思い出したのだ。
「何っだお前…ビビらせるなよ。」
「ご、ごめんごめん」
実弥が心臓のあたりを抑えながらそう言ってくるので、慌てて口を塞いだ。とは言えもう叫んでしまったので時遅しである。
「何か思いついたのか?」
「うん。もしかしたらもしかするかもしれない。」
二人とも、じっと真剣に私の話を聞いてくれた。
「私、鬼を人間にする薬の作り方知ってるわ。」
今まで思い出しもしなかったのが不思議なほどだ。でも、確かに私の記憶の中にあった。
「よろしいですか、霧雨さん」
「…ああ、うん、覚えた。……多分。」
不安げに答える私に、珠世さんは怒りもしなかった。
「私はもともと刀を振るしか能がないんだ。こんな複雑なこと、覚えるのも一苦労だ。」
「そんなことありません。一度覚えてしまえばそこまで複雑ではありませんよ。」
「いやそんなこと言ったって、これは無理だぞ…。」
ぶつぶつと薬を作る行程や材料をつぶやく。全くもって合っているか自信がなかった。
「紙に書いたらダメなんだろう?」
「はい。鬼に見つかってしまう可能性もありますので。」
「だよなぁ…。」
道具類をかちゃかちゃといじって、先ほど見せてもらった作業を再現する。
「一度やってみるが、あまり期待するなよ。」
「ええ。」
彼女はそれでも優しく微笑んだ。
「霧雨さんなら大丈夫です。きっと。」
「その信頼はどこから来るんだ?」
おかしなことを言うな、と呆れてしまった。
どうしてこの人はここまで優しいのだろうか。
「私ね、思うんです。子供がいたらこんな感じだったのかなって。」
「子供?」
手を動かしながらも、私はその言葉に反応した。
「…もういないのだろう、あなたの家族は。」
それで動揺してしまったのか、カタン、と音がして机の上のカップを倒してしまったが珠世さんがそれを元に戻してくれた。