第92章 夜露死苦
「でも鬼が生きていてもいいって人もそうそういないんじゃないかしら。」
私が言うと、二人とも黙り込んでしまった。
「生きていてもらうにしても雨で神社はボロボロになっちゃったし、どこかに匿わないとだよね。誰かに見つかって噂にでもなればそれこそ大変だし。」
「いや…殺すの選択肢に入れるなよ。」
「鬼なら殺人にはならないだろう。」
「あ?」
「お前は鬼を斬る時に罪悪感を感じたのか?」
巌勝にそう言われ、実弥は言葉を詰まらせた。
「憶測ではあるが、やつを斬ったところで現世への影響はないだろう。だが問題はやり方だ。」
「確かに。日輪刀ないもんね。さっきの様子からして太陽の光は苦手なだけで絶対的な弱点ではなさそう。それだと頚を斬るのも効果があるかどうか心配だな…。」
鬼の弱点か……。太陽の光と頚以外に何かあった気がするけど…。
「にゃああん。」
と、その時。
私の膝の上にズッシリと何かが乗っかった。
「…茶々丸……」
「にゃああん?」
「フシャーーーーーーーー!!!!!」
私の膝上でくつろぐ茶々丸に、おはぎがこれでもかと言うほど威嚇している。しかし永久的な時を生きる茶々丸にとってはどうでもいいことなのか、知らんぷりをしている。
「…そうねぇ、お前も鬼だったねぇ。」
「にあ〜ん」
「私でもお前は斬れないなあ。」
よしよし、と撫でてやるとおはぎが更に怒った。
「おはぎはまたね。」
「にー、にー、にー」
甘えるみたいに甲高い声で鳴き出したが、茶々丸が膝の上にいる以上動けないので仕方ない。
「そういえば、胡蝶さんに昔言われたなぁ。鬼と人間が仲良くできたらいいのにって。」
「…ああ、言ってたな。」
「まあ、人間さえ食べないなら可能だと思うけどね。」
私はそっと茶々丸を撫でた。
…前世で胡蝶さんにそう言ったら、困った顔されたな。鬼が人間を食べないなんて無理なことだから。
茶々丸は人間を食べないし、きっと共存していけるだろう。そもそも猫だし。
やはり、彼女を今後どのように扱うのかが一番の課題となりそうだ。