第91章 ただ一つの願いから
日の光が遮られたからか、苦しそうにしていた彼女の顔が少し和らいだ。
「それで、いったいどういうことなんだよ。」
三人でその顔を覗き込んでいると、実弥がそう言った。
「なんでこいつがなんだ。同姓同名か?」
「あ、うーんと。ちょっと違ってね…。」
ちょっとどころかかなり違う。
「輪廻転生…って言うのか……。私たち、過去の自分の記憶を持っているじゃない?」
「ああ。」
「自分の死に際も覚えてる…よね、普通は。」
「……覚えてるな。」
「私、覚えてなくてね。……あまり考えないようにしてたんだけど、それって…つまり、ね。良い?びっくりしないでよ。叫ばないでね。」
「………」
実弥はピタリと固まった。
そして畳の上で寝転ぶ彼女…つまり、自分自身を指さしたのだ。
「私、死んでなかったのよ。」
「……………」
「ずっと生きていたの。鬼として。」
実弥はチラリ、と畳の上の私を見た後に、目の前にいる私を見つめた。
「………………………………………………………いや、悪い、わからん」
長い間の果てに、実弥はそう言った。
うん、だよね。
「生きてるって、お前、大正からずっとか?」
「うん。」
「何年経ってると思うんだよ。」
「わかんない。日本史、苦手だったし。」
「じゃあお前は何なんだよ。」
実弥が言うことは最もである。
「そこなんだよね…。もしかしたら、思い違いをしていただけで私って霧雨じゃなかったのか……。」
「は?誰だお前。」
「ちょっと寂しいこと言わないでくれる。」
現世では一応霧雨でございますけれども。
「そういうことは霞守に聞くのが早いだろう。」
そんな揉めに揉める私たちに鶴の一声を投げかけたのは巌勝だった。
「なるほど。この顔面ならどう考えても霞守一門であることは間違いないし!絶対それが1番よね!阿国以外にもこの顔面の人がいたか陽明くんならきっと知ってるはずよ!」
「いったい誰なんだお前は」
「だから寂しいこと言わないでくれる!!!」
私が目に涙を浮かべると、実弥は冗談だと言って抱きついてきた。