第91章 ただ一つの願いから
まあ、確かに私が全くの別人だった説は濃厚…なんだろうか。
「私たちは器だ。」
頭を悩ませる私たちに、またしても巌勝が口を出してきた。
「私の場合、前世の私の記憶を所有しているだけで、大正時代の私と今の私は別人だ。だが、容姿も名前も瓜二つであるため転生…とも言える。」
「…そうね。私もそういう認識。」
「ならば、前世の自分が仮に生きていた場合はどうなるか…。」
私は必死に頭を働かせた。
「考えられるのは、私が所有していた記憶は霧雨のものではなく、器である私は全く別の誰かということ。
もしくは、人間としての私は死んでいるのだから、人間としての私である…という説だけど、鬼になってからの記憶もあるからこれは違うかも。
で、これは希望的憶測なんだけど…。」
私はチラリ、と眠る自分を見下ろした。
「私は転生した人間ではなく、単に私であり、誰でもなく、記憶だけを持った器であるということ。」
そう言うと、巌勝はふむと頷いた。
「面白い考えだ。しかし、そうなればお前はなぜよりにもよって霧雨の記憶を持って生まれてきたのだろうな。」
「よりにもよってって何よ。それなりに幸せに生きてるわよ。」
「その顔で幸せという単語を口にするな虫唾が走る」
「なんでよ!!阿国との因縁私にぶつけてくるのやめてくれる!?」
こいつがバカになるのは阿国のこと限定なのはわかっていたので名前を出してみた。すると巌勝はわかりやすく黙り込んだ。
「で、お前誰なんだよ。」
「知るか!」
実弥にもまたそんなことを言われて、私はカッとなって怒鳴った。
「そんなに霧雨がいいなら目の前にいるんだからどうぞお好きに!?何してもいいよ!?もう私怒らないよ!?」
どうぞどうぞ!と実弥の背中を押すと、実弥はぎゅっと畳の上で踏ん張った。
「待てやめろ!俺を変態みたいに言うなって!!」
「変態…ではあるな。不死川はたまに頭がおかしい。」
「おいテメェ今何つった」
実弥は怒りの矛先を巌勝に向けた。
とても今更だが、集まってはいけない三人が一つ屋根の下に集まってしまったような気がしてきた。
…私たちだけでこの展開に立ち向かうのはかなり無理があるんじゃないだろうか。