第13章 出会いは始まり
ただただ沈黙が広がる中、呑気な明るい声が響いた。
「パパァ!!」
男の子だった。満面の笑みで男の子は男に抱きついた。
そこで、ようやく固まっていた私の思考回路も動き出した。
「あの…その子が、迷子になっていたみたいで…お父さんですか?」
「……すみません、目を離した隙にどこかへ行ってしまったんです。」
男はそう話して男の子を抱き上げた。
私はゆっくりと立ち上がったが、少しふらついた。…そろそろ立ってるの疲れてきたかも。本当に体力落ちちゃったなあ。
「それで…あのう、阿国…っていうのは……。」
「…いえ…あなたが、昔の知り合いに似ていたものですから。忘れてください。」
男は物静かな人だった。本当に静かだ。感情に一つも起伏がなく、ただ落ち着いている。穏やかなそよ風のような、そんな人だった。
「……ご迷惑をおかけしました、息子の面倒を見てくださりありがとうございました。」
男は頭を下げて去っていく。
その背中を見た時、また頭が痛くなった。
「……縁壱さん」
気づけばそう呟いていた。
男が驚いたように私を振り返る。縁壱?よりいち?なぜ?どうして?
この名前は、どこから……?
「継国、縁壱……」
記憶の波が押し寄せる。
ああ、そうか。
そうだったのか。
阿国。
これは、あなたの記憶。
そして、夢の中で見た、桜くんの遺品にあった名前。珠世さんから聞いた名前。
「……阿国…」
邂逅。
言葉を与えるなら、正しくそうとしか言いようがなかった。
奇しくも、私は時を超えて邂逅を果たしたのだった。
「…私は阿国じゃないんです」
継国縁壱の期待を含んだ視線に慌てて否定した。阿国と私は瓜二つ。誤解されるのも仕方がない。
「私は霧雨。」
「霧雨…。」
「ごめんなさい、私はあなたの言う阿国ではないんです。」
彼の目が揺らぐ。
…やっぱり、ショックだったのかな。