第91章 ただ一つの願いから
ん____?
過去の私?
ていうか、何かを忘れているような。
「」
「……ん?」
「俺からは逃げても、こいつからは逃げんなよ。」
実弥は私の手を掴んでいった。
こいつ、というのは今彼の腕の中にいる赤ちゃんのことで。
「………俺が教えるから、ちゃんと。母親っていうのが何なのか、愛してるの伝え方とか、全部。」
「………」
「顔」
実弥はぎゅっと私の頬を捻った。
「笑ってろ。」
そう言われて、ひとまず笑ってみた。
「………ん、かわいい。」
「かっ…!?」
「かわいい。」
普段滅多に言わないくせに、この男どういうつもりなんだろうか。ああこの。
「……私もうおばさんだよ。」
「まだ若いだろ。それにお前がおばさんなら俺もおじさんだよ。」
「いや実弥は童顔だから関係ないでしょ。」
「はあ?」
そう言うと、彼は不満そうに表情を変えた。
「いつまでも赤ちゃんみたいな顔しちゃってさ」
「…ヒゲでも生やすかァ」
「その顔じゃ似合わないよ」
一瞬ヒゲの生えた実弥を想像してみたけど、解釈違いだ。いつまでもツルツルでいてほしい。
「…実弥はそのままでいてね。」
私がヒゲのない顔を撫でると、実弥はくすぐったそうに笑った。
「ウルセェ。どうせ一緒にしわくちゃになんだよ。」
…本当に実弥は、私との未来を想像してるんだなぁ。
私には、未来とかわからないし。自分が何をしたいのかも見えてこない。
「……おばあちゃんになっても私のこと好き?」
「当たり前だ」
食い気味に返された。
「私が死んでも私のこと好き?」
「うるせぇな死なねぇんだよ」
「いや、いつかは死ぬ「死なねぇ生きる永遠に生きる」」
頑として譲らない姿勢でそう言われてしまい、思わず苦笑する。…それは無理があると思う。