第91章 ただ一つの願いから
死んだ時、私はようやく安心できるだろう。
秘密を抱えて、一人で死んだ時、私は。
私は。
「……実弥が…私に何を見ているのかは、正直わからない。ただいつも私の秘密を暴こうとするから、そこだけが怖かった。」
「………」
「話せることは全部話した、つもりだった。」
彼の顔を覗き見ると、泣いているのか怒っているのか、そんな表情を浮かべていた。
「私はどこまでも実弥に誠実でいた自信がある。」
「…」
「私のことなんか信じられないと思うけど、私は私なりに君を愛した…つもり。」
そっと足下に視線を落とした。
「私はみんなに綺麗なところばかりを見せいていた。無一郎くんにだってそう。…けど実弥は私の汚いところも見たがった。
行冥だってそこは見ようとしなかったのに。私は汚い自分を隠すのに必死だったのに。私は欲張りだから、誰にも嫌われたくないの。綺麗な私だけ見ていて愛してほしいの。」
ぐっと拳を握りしめる。
「醜い自分を曝け出して、辛いから助けてなんて言う生き方は私は死んでもしない。」
実弥は弱い私を見たがった。
なんでも話せと言った。
「でもそれじゃあ、お前ずっと一人じゃねぇか。」
実弥の言葉は重かった。
一人、か。
「そうだね。一人でも大丈夫だった。」
「……」
「…それなのに、どんどんおかしくなった。」
実弥は汚い私を見ようとした。
私はとことんそれを拒んだ。
拒むべきじゃなかったのに。
「みんな私を一人にしたのに、私を求めるの。狂ったみたいに、手を伸ばしてくるの。助けろ助けろって、私が助けてって言っても誰も助けないくせに。」
「…」
「でもいいの。」
私はぎゅっと手を握り合わせた。
「私の幸せは、みんなのところにあるんだから。」
私は自分で勝手に握った手をそっと離した。
私が不幸でも、みんなが幸せに笑っているのならそれでいいと思った。私が泣かなくても、誰かが泣いてるのならそれでいい気がした。
「けどもう疲れた」
でも、私だって人間で、感情があって、涙が出る。
「…私ね、本当は、お館様からもらったあの家、気に入ってんだぁ。」
さあっと生ぬるい風が吹いて私たちの間を通っていった。