第91章 ただ一つの願いから
実弥の攻撃は大ぶりだ。機敏に動けば当たらない。
私に向かって大きく手を広げて突進してくる実弥をかわす。けれどそれで転ばずにまた体制を整えて私に突撃してくるあたり、さすがと言うべきか。
まあ避けられるんだけど。
茶々丸を揺らさずにひょいひょいと避ける。最後はビシッと手のひらを眼前に突きだ……
そうとしたがハッとしてやめた。
まずい、攻撃を加えるわけにはいかないし…。
さらにヒョイっと身をひるがえして避けた。
笑っちゃうくらい、私のとって実弥を負かすことは簡単だ。
このボロボロのコンディションでも彼を完封することはできる。
でも。
私はもう動くのはやめた。
ピタリと止まると、実弥も同時に止まった。
「俺になら勝てるってお前は思ってんだろ。」
「…」
「俺は一度もお前に勝てたことはねェ。前世でも負けっぱなしだ。いつも手が届かなかった。それでも先陣切って飛び出していくあんたを追いかけてたんだ。」
顔を下に向けながらも、実弥はぐっと拳を握りしめた。
「やっと手が届いた時はあんたが死んだ時だ。」
実弥が顔を上げた。
…久しぶりに、彼の目をちゃんと見た。
「後にも先にもあんただけだ」
彼は、私の肩にそっと手を置いた。
「なあ、。」
その手が、震えていた。
「俺はお前の隣にいたいんだ。」
私はそっと彼の手から自分の手を離した。
「踏み込んだら、隣に行ったら、ダメなのか。」
逃げるように半歩下がれば、実弥は大股で一歩私に詰め寄った。
「そ、れは」
私はぐっと唇を噛んだ。
「………」
秘密は隠して隠して、最後はお墓の中。
知られてはいけない。
隠さないといけない。
そうでないと私は生きていけないのだから。