第88章 明けない夜はない
「立て!!」
その声が地面を揺らすような気がした。
倒れた私は、ただ息をしているだけなのに。
なのに。
なんで私の手を引っ張るのか。
「立て!!頼む立ってくれ!!」
嫌だ。
やめてくれ。
もう全部やめてくれ。
「なぜ自分が生まれてきたかなど私にもわからない!!私の人生がなんだったか、自分が何者なのか、私は知らない!!」
「…みち、か」
「立て!!!立って言い返せ!!!」
無理だよ
言うことがないよ
だってもう
「絶望を引き連れて消えるな!!争って生きろ!!!」
「……」
「お前はいつも前を向いていた!前を向くために自分を騙し続けていた!!だがそれがどうした!!」
「………」
まだ声が聞こえる。
「意味のないことか!!それが!!!仲間と過ごし、笑い、手を繋いだことが!!!」
声が
声が
『ガラス、ひとつお願いしてもいいですか?』
『なんだ?』
『このお手紙、届けて欲しいんです。』
_________
『誰にだ?』
______________
『記憶を取り戻した無一郎くんに』
_________
『きっと混乱して寂しいだろうから、お手紙だけ送りたいのです』
『あの子は』
______________
『あの子は、どんな時でも私が手を繋いでいたいんです。』
「!!!」
巌勝が私の手を引っ張る。
繋がれた手が暖かい。
世界が色づいていく気がした。
「_______無一郎くん」
見えたのは、青。
空の、青。
「実弥」
おはぎを撫でて、赤ちゃんを抱っこして、幸せそうに笑う。
そこに私はいない。
いつも夢の中で見る景色だ。