第88章 明けない夜はない
彼女がぶっ飛ぶ。木々の隙間をくぐりぬけ、私は彼女の手を握った。
「生きていく理由が欲しい」
私はためらいもなくその顔面を殴った。
「人を救うことで私は人間になれる」
言っていることが矛盾だらけだと、わかっていた。
救うために傷つけた。傷つけ続けていた。ほら、今みたいに。
「私は人を救うことで自分を傷つけてきた!!!」
もう一発、殴る。
「お前が否定すんなよ」
その胸ぐらを掴む。
「お前が始めたことなのに、お前が私を諭すな」
「じゃあどうすればよかった?」
が、彼女が私の手を掴んだ。
「私に余計なことを教えた奴らのことなんざもう忘れたよ」
彼女が、私の顔を殴った。
「教えろ」
もう一発。
「なあ、教えろよ」
彼女は私から手を離した。
「何が正しかったんだ」
どうして、と。
「どうすれば良かったんだ」
どうしてなんだと
叫ぶその目が、私そのもので。
「みんなの正しさが真実で、私の全てを否定することでも受け止めないといけないなら。私が人を救うことで私の心がすり減って、体が傷ついて。
心を教えるだけ教えて去っていく奴らを見送ることが、一握りの幸せのために死にたいと思うことが、他人を愛せないことが、どれほどのことか言葉にもできなくて。
隠してきた。全部隠してきた。秘密にするふりをして考えなかった。考えたらすぐに答えに行き着くから。」
全部、隠して、気づいたときにはお墓の中。
私は、冷たい土の中で真実に気づく。
「私は間違えた。人生の全ての選択を、後悔しないと言いつつ後悔した。私は間違え続けた。私の全てが間違いだ。私は自分を傷つけて、消えない傷を消したかった。死にたかったんだ。
死ぬために生きていたんだ。」
その真実が、
どうしようもなく私を縛り付ける。
「私の人生にいったいなんの意味があったって言うんだ」
呪われている。
産屋敷と同じく、霧雨も呪われている。
呪ったんだ。陽明くんが、呪った。
幸せなんていらないと、呪った。
そして知らず知らずのうちにその呪いを受け入れる自分がいた。