第88章 明けない夜はない
「!!!」
巌勝が叫ぶ。さらにもう一発拳が飛んでくるので受け止める。
「茶々丸が待ってます!降りますよ!!」
「………降りない!!!」
彼女が体制を立て直し、私の顎を蹴り上げた。せっかく掴んだ手を一瞬で離してしまった。その隙に彼女は山の奥に消えていった。
「大丈夫か?」
「っ脳みそ揺れた…!!」
「それでも立ってるんだから大したものだ。」
私はガッと足を肩幅に広げた。
「巌勝」
「なんだ」
「あいつ絶対山から引きずり下ろすぞ」
蹴られた顎を抑え、私は…恐らく笑っていたと思う。
「…言うと思った。」
巌勝は落ちていた木刀を拾う。
「乗った。付き合おう。」
目的も理由も頭から吹き飛んだ。
私は耳の神経を尖らせた。
葉の擦れる音、木の枝の揺れ具合、風が吹く方向…。
「見つけた」
そう呟くと同時に、私と巌勝は飛び出した。
「霧雨!お前は体がまだ万全ではない、いざという時は私がやる!」
「はっ、お前の出番なんてないよ!!」
頭はまだぐわんぐわんと割れるように痛いし、走りすぎて足も疲れてきた。息も上がってる。
でもやっぱり、巌勝も一緒は楽しい。
飛び込んだ先には、木々に隠れるように彼女がいた。
「…そうやって」
私と同じ声で彼女は言う。
「お前が笑う時は誰かが泣いている時だ。」
ああ、そうだね。
よく知ってるよ。
「泣くやつは泣かせるさ」
「そうか…最低だな」
右足を振り上げて体を旋回させる。
「力がないから遠心力を使って蹴りを入れる…単純だな。」
私の蹴りはあっさりと受け止められた。
「最低でいいよ」
私は笑う。
「もともと、人に好かれる人間じゃないしね」
次は彼女の攻撃。私と同じ、体を回転させて大ぶりの蹴り。
「お前は幸せを履き違えた」
「そんなことない」
「本当は他人の笑顔なんてどうでもいいだろう」
「私はみんなの笑顔のために戦った」
「お前のエゴでたくさんの人が泣いた」
「みんな私に石を投げて笑ってた」
「大切な人の声を無視してお前は何がしたい」
「私は」
話しながらもお互いの猛攻が続く。
私が劣勢。彼女が優勢。
「私は大切な人の隣で、生きていくための理由が欲しい」
また私は、体を回転させた。