第88章 明けない夜はない
「…!?行くってどこに…」
実弥がまだ何か言っていたけれど、私は玄関の靴に足をつっこんだ。
「止んだでしょ」
「何が」
「雨」
私は振り返った。
「ちゃんと雨止むまであの部屋にいたでしょう?」
「…!!」
言うこと聞いたんだから文句言われる筋合いはないはずだ。扉壊したのはやりすぎたけど。
「じゃあ、行ってくるね。」
「……ダメだ、行くな」
「雨が止むまでって言ったのは実弥だよ。」
私は立ち上がって玄関の扉を開けた。
「どこにも行くな…!」
実弥は右手で私の腕をつかんだ。左の腕の中には赤ちゃんがいてすやすやと眠っている。
「ここにあるだろ、お前の大事なもん」
「……」
「置いていくなよ」
そのすがるような声が耳につく。
置いていかないでって、そんなの。
「______」
どうして君が言うんだろう。
違うよ実弥。
逆なんだよ。
ずっと置いてけぼりだから、私が追いかけてるんだよ。
いつも夢を見る。
みんなが幸せそうな場所に私はいない。
みんなが笑っている場所に私はいない。
隠して隠して、最後は墓の中。
「」
実弥が名前を呼んだのが聞こえたが、私は外に出た。
幸せはぼーっとしていてもやって来ない。
私は助けてと言われたら手を差し伸べる。誰かの笑顔のため。泣く人のため。
そして、私が生きるため。
私は死にたくないから助ける。そのために、自分はどうなろうと構わない。誰かが助かると言うのなら死にたい。
私は死にたくないから、死にたい。
雨が止んだばかりの水溜まりだらけの道を直走る。茶々丸の飼い主の元へ向かった。
______無茶ができるのはあと一回。
優鈴と病院で話したことを思い出しながら、全力で走って神社へ向かった。