第88章 明けない夜はない
みんなが、笑うことが、幸せだった。
夢を見たんだ。
鬼のいない世界で、みんなが笑う夢。
でもそこに絶対私はいない。
私は私の幸せを祈らない。
私は私の幸せを呪う。
その先に、死に損なった私が生きている。
だったら。
もしわがままを言うなら。
ガキン、と扉が壊れる音がした。
私は一歩前に踏み出す。
ああ、こんな体になってもある程度の力は温存できたみたいだ。
ぐっと拳を握りしめる。
無理に外した扉をおしのけ、ペタペタと足音を立てて廊下を歩く。
すると当然、その音を聞きつけた実弥が私の前にやってくる。
「お前…どうやって…」
部屋の前には大きな砂袋が置いてあった。なるほど。これがストッパーとなって扉が開くのを防いでいたのか。
「_________あー、重かった」
感情のない声で口にする。
実弥が息をのんだのがわかる。
彼の腕の中には赤ちゃんがいた。手足をばたつかせてワンワンと泣いている。
「………」
実弥と赤ちゃんが、幸せそうに暮らす未来が簡単に想像できる。でもそこに私はいない。私がいる未来はない。
未来は、ない。
死にたくないと、生きたいと、願っても未来がない。
「行くか」
私は笑った。
笑顔が、顔に張り付いたまま離れない。
染みついた、嘘の笑顔が。