第88章 明けない夜はない
なにもすることがないので久しぶりにスマホを開く。
ずっと充電していなかったけれど10パーセントくらいはまだ残っていた。
「…?冨岡くんだ」
メッセージが来ている。珍しいことまあるなと思って私は迷いなくチャットを開いた。
『無事か』
短く、それだけ。
でもそれを始めとしてすぐにポンポンといろんな人からメッセージが来ていた。
一体なぜかと思えば、新たにカナエからメッセージが来た。
『そっち、雨がひどいってニュースで見たけど大丈夫?困ったことがあったら言うのよ。』
…ああ、そうか。みんな心配してくれているのか。
何か返さなければと思ったが、私はスマホを放り出した。
みんなにわざわざ自分のことなんて話していないけれど、もしかしたら実弥が話したりしているのかもしれない。
けどそれを確認するつもりもなく。
私はみんなからのメッセージに答えることもなく、畳の上に寝転んだ。
雨がやんで、実弥が部屋の扉を開けてくれたらなんて言おう。茶々丸が心配だ。赤ちゃんは今どうしているのだろうか。
顔も思い出せない。顔を見ないと。声を聞いてあげないと。
幼い頃、私が切に願ったことだ。
両親に愛されたいと思っていたくせに我が子を愛する気がまるでない。
そして気を抜けばひどいことばが出てくる。
あの両親のようには絶対になりたくない。
何とかしないと。
私が変わらないと。
愛して育てなくちゃ。
私がお母さんだって、言えるように。
(変なの)
そう思えば思うほど、自分が押しつぶされる気がする。
(愛ってどうやって生まれるんだっけ?)
過去を振り返ると、知らず知らずの間に私の心の中に合ったと思う。
私にはわからない。
赤ちゃんの泣き声が扉越しに聞こえてくる。声をかける実弥の声だって聞こえる。
どうして、実弥はあんなに無条件に愛せるんだろう。
それが自分の子供だからって、妻だからって。
彼には理由はいらないのか。何か自分が大きく変わるようなきっかけとか、そういうことは必要ではないのか。
私は多分、それが必要だ。