第88章 明けない夜はない
「痛いッ!!!!!」
容赦なく握力をかけられたので思わず叫んだ。が、実弥は止まらない。
抵抗したけど、普通の力では敵わないし私は体調まだ不安定だ。どうにもできなかった。
「実弥」
名前を呼んでも答えてくれなかった。
彼は一番奥の部屋の扉を開け、そこに私を押し込んだ。
ここは使われていない部屋で、私が物置にしていた部屋だ。実弥もここは使っていないため物があるばかりで殺風景なままだった。
うまく受け身がとれずに畳の上に倒れこむ。
「雨が止むまでそこにいろ」
実弥は低い声でそう言ったかと思えば、ピシャリと扉を閉めた。
とっさに起き上がり、扉を開けようとする。しかし何かが引っかかって開かない。
次に蹴ってみたり殴ってみたり、色々やってみたけどダメだった。手や足が痛くなるだけだった。
閉じ込められた。
私は諦めて畳の上に座り込んだ。
………部屋から、出られない。
(……懐かしい、と言えば懐かしい)
両親から部屋に閉じ込められたことなど何回もあった。
実弥にまでそれをされるなんて。
………あぁ、ダメだ。
私はダメだ。
こんなことになっても茶々丸やあの飼い主のことが頭から離れない。
それとは逆に、自分の子供のことは何一つとして頭に浮かばない。
あの子はどんな顔をしていただろうか。最後に話しかけたのはいつ?あの子の泣き声はどんな声だった?
私は開かない扉を前に、一人でただ考えた。
思い出せない。
自分の子供のことも、最近の実弥の顔も。
実弥とちゃんと話したのはいつが最後だっけ?
私は実弥に何をしてあげられたのだろう。
家族とは、なんだろう。