第87章 嘘はつかないから
私は外に出てその猫を出してやった。
「…この家に来ても何もないから、もうお戻り。」
「にゃ〜」
「飼えないんだよ、ごめんね。」
よくこの家には野良猫が来るから、釣られてやってきただけだろう。
「……でもお前、首輪がついてるね…」
その首輪も茶々丸がつけていたものにそっくりだった。
私がその猫を撫でていると、ヌッと影が落ちた。
何かと思って顔を上げると、そこにはいつの間にか人がいた。
「えっ…!」
驚いて数歩下がる。
そこにいたのは黒いローブを身にまとった、初めて見た人だった。…誰だろう。体型からして女の人みたいだけど、顔が見えない。
「こんなところで何をしている」
「…!!」
それはどちらかと言うとこちらのセリフだが、なぜかもの言えぬ雰囲気がその人にはあった。
「にゃあ!」
「全く、山を降りるなと言っただろう。」
…しかし…どうやら私に言ったわけではないらしかった。茶々丸にそっくりな猫はその女の人に飛びついた。
「…あの」
「確かに返したぞ。」
「え?」
何のことか、と思ったが彼女はそのまま背を向けた。
「世話になったな。」
そして猫を抱いて歩いていく。
……いったい、何だったのか…?
そう思って立ち尽くしていると、また声がした。
「にゃあ」
…猫?
いや、この声…
「おはぎ…!?」
「にゃあ」
私が名前を呼ぶと、いつからそこに居たのかおはぎが足に擦り寄ってきた。
「…そんな、今までどこに……」
おはぎは私に飛びついてきた。抱き上げて撫でると、嬉しそうに喉を鳴らした。
『確かに返したぞ』ってさっきの人言ってたけど、もしかしてあの人がずっと預かってたってこと???実弥が言ってた、おはぎを預けたのってあの人だったの?
「待って」
私は気づけば、おはぎを家の中に置いて遠ざかる背中を追いかけていた。