第87章 嘘はつかないから
私はその日眠れなくて、ぼうっと天井を見上げた。
横には赤ちゃんと実弥がいる。いわゆる、川の字というやつで寝ている。
……こういうの新鮮だ。もう物心ついた頃には自分の部屋があって1人で寝ていたから。
一緒に寝たくても、親は許してくれなかった。私と一緒が嫌だったみたいだ。一回、どうしても夜が寂しいからお願いして約束してもらったのに、いざその時になれば『そんなこと覚えてない』と言われた。
その時から親との約束は信じていない。
……私もいつかそういうことを言う親になるのか?
「………」
ダメだ、将来のことを考えると憂鬱で眠れない。
私は起き上がった。
最近、あまり夜眠れない。日中動いてないせいか眠くないのだ。
(今日はみんなとたくさん話したから眠れると思ったのに…)
2人を起こさないように布団から出た。
『どこに行くんだ?』
その時声がして、ハッと振り返った。
男の声だったが実弥のものじゃない。当然そこには誰もいない。でも…。
誰かがそこにいるような気がした。もう気配も何も感じることができないのに、なんでかそう思った。
『どこに行くんだ、夜は大人しくしていろ』
………誰…だっ、け…?
思い出せない…。彼は…誰??
「にゃーー」
するとその時、声がした。
またあの鳴き声だ。
いる。
雨戸を閉めた、あの向こう側にいる。
(行かなきゃ)
また、そう思って足を動かした。
寝室から出て行こうとすると……。
大人しく寝ていた赤ちゃんが突然泣きだした。
「ふええええーーーん!!うわああーーーん!!」
「っ!」
「なん、だァ…?」
すると実弥も起きた。
「……ふあぁ、そうか、ミルクか…」
実弥がゴシゴシと目をこする。すると、暗闇の中でぼうっと突っ立っている私と目が合った。
「うわっお前何やってんだ?起きてたのか?」
実弥が慌てて赤ちゃんを抱き、固まる私を見上げる。
猫の声が聞こえない。
私はプツンと何かがちぎれた気がした。
「……うるさいんだよ」
「?」
「あんたのせいで聞こえなくなった!!」
私は赤ちゃんに向かって怒鳴っていた。