第87章 嘘はつかないから
私は実弥に引く…というか、ちょっと驚いていた。
「パパが娘に過保護になるって本当なんだね。」
「…別に過保護じゃねぇよォ……」
……自分の父親があんな感じだったから、そんなことあるはずないって思ってたけど。
実弥がまさしくそれを表していてびっくりしちゃった。
「お前は娘が男連れてきても良いってのか。」
「…人の自由じゃない?」
何がそんなに気に食わないのかわからない。好きにさせてあげればいいのに…。
「ダメだダメだ、絶対認めねぇ」
実弥はムッとした。………うん。多分、その時が来たら『いいよ』って言ってあげるんじゃないかな。
君はそういう人だと思うよ。
「そうだね、認められないねぇ」
「ふん」
とりあえず実弥が言ってほしいと思われる言葉を口にした。
日が沈み、晩ご飯を食べ終えた後。
実弥がお風呂に入っている間に、私は家の戸締まりをしていた。……全く何もしなかったけど、最近はちょっと家事とかやるようになった。流石にボーッとしてるのも飽きた…と言うか。
……今は休む時間だと自分に言い聞かせてはいるけど、やっぱり動かないといけないなって思うんだよね…。
「にゃー」
玄関の鍵を閉めた時、猫の鳴き声が聞こえた。
思わず手を止めた。
「にゃぁ」
やっぱり。
聞き間違いじゃない。確かに聞こえた。
姿は見えないけど聞こえる。
………でもこの声。
(おはぎじゃない)
今の私は力がないから、もう猫が言っていることを理解できない。でもおはぎの鳴き声はちゃんと覚えてる。だから断言できる。
これは違う猫だって。
でも……。
この鳴き声がとても懐かしいのは……。
(…もしかして)
私は慌てて玄関に言ってサンダルに足をつっこんだ。そのまま外に飛び出して、あたりを見渡す。
ただ目の前には田んぼと山が広がるばかりの田舎風景と夜の暗闇だ。
「にゃあ」
でも、ほら、聞こえるんだよ。
「どこ」
私は声がする方に足を動かした。
「どこにいるの!?」
また鳴き声がした。
すると遠くに、小さな影が見えた。
月明かりの下に、小さな小さな影が。
遠くて姿ははっきりと見えないけど。