第87章 嘘はつかないから
そうして騒がしくお話をしたあと、みんなは日が暮れる前に帰っていった。
………忙しい中みんな予定合わせて来てくれたのかな。
みんながいなくなった部屋がずいぶん寂しく感じる。
赤ちゃんはみんながいる間ほとんどすやすや寝ていたのだが、静かになった途端に大声を出して泣き出した。
「うきゃーー!!」
「ああ?どうしたァ?」
実弥は不機嫌になった赤ちゃんを抱っこする。
(…そういえば、あのおもちゃ……。)
キョロキョロとあたりを見渡すと、赤ちゃんのそばにポツンとあの音がなるおもちゃが落ちていた。
「これ…」
チャリチャリと音を鳴らしながら赤ちゃんに近づけると、またピタリと泣き止んだ。
「ん?なんだそれ。」
「春風さんがくれたの。さっきもこれで泣き止んだんだ…。」
赤ちゃんはヒックヒックとまだ嗚咽をもらしていたが、大泣きすることはなかった。
そのあとおむつを変えたりミルクを飲ませたりしてなんとかご機嫌に。ようやく私も抱っこができるようになって、してあげられることが増えた。
…とはいえ、実弥の足元にも及ばないんだけど。
「まだ笑わねぇか〜。そのうちケタケタ笑うんかな。」
実弥は赤ちゃんの頬をツンツンとつついて笑った。赤ちゃんはというとあくびをして実弥の抱っこで大人しくしている。
「…気が早くない?」
「そんなことねぇよ。すぐ小学校入ってそんですぐ彼氏連れてきて結婚とか言い出すんだ。」
「………え?」
「……そんで連れてきた相手の野郎は俺がぶっ潰す…」
実弥は据わった目で言った。
…いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
「まだ先のことだと思う。」
「あァ!?こういうのは早めに心の準備した方がいいだろうが!!」
「………そもそも結婚するかどうかもわからないし…」
「こんなに可愛いのに結婚しないわけねぇだろ!!」
……………うん。
可愛いのは、認める。
可愛い。可愛いよ。うん。
………。
「そんなことしていたら嫌われるよ?」
「うっ…」
「それに、実弥だって中学の時に私と付き合ったじゃない?」
実弥はしばらく固まった。
「それでも認めねェ」
が、キッパリとそう言った。…これは、将来が大変そうだ。