第86章 ノスタルジー
「本番はもっと神社装束らしい作りにしてもらうつもり。それは試作段階のやつね。没になっていらないからもらってきたの。」
優鈴が補足でそう説明してくれた。…確かに隊服じゃ、舞って感じしないもんね。
「前田くんが着てみてほしいってさ。没になったデザインだけど、サイズが不安だからあってるかどうか知りたいからお前がそれ着てる写真撮ってきてくれって言われてる。」
「…これ着るの?」
「ん?いや?」
「……なんか小さい気がする…」
…違和感がある。
いや、特にこうとは言えないんだけど、なんかおかしい気がする。
「ま、着てみれば?小さかったらでかくして貰えばいいんだし。」
「………」
前田くんかぁ。
……………あんまり良い思い出がないかもしれない。いや、私はね?隊服作ってもらえなかったから自分で用意してたんだけど。
他の女の子たちの見てたから……。
いや、まさか…あれは大正時代だから許されていたセクハラであって。令和の今そんなことしてくるわけはなくて。
「じゃあ着替えてくる」
考え直して奥の部屋に行き、隊服に袖を通す。
…なんか昔を思い出すなぁ。隊服に袖を通すの、本当は嫌だったんだよね。ああ、また鬼狩りかーって。いつになったら終わるんだろーって。
………今更そんなこと思い出したって辛いだけなんだけど。
なんてことを考えながらとにかくちゃっちゃと済ませ、みんなの前に姿を見せた。
「ジャーン」
「お、着替え終わっ…………」
勢いよく登場すると、全員固まった。実弥なんて口が開いたまま閉じていない。
「やっぱりちょっと小さいかも。ボタンがきつかった。」
なぜかシャツがぱつぱつで、なんとか閉まったボタンは悲鳴をあげているように見えた。
際どい丈のミニスカートにニーハイソックス、シャツは袖がないやつだし。上着もなんかぴっちりめで前が閉まらなかった。
唖然とする実弥を置き去りにして、他の4人は盛り上がっていた。