第86章 ノスタルジー
「いーくんってあれ?なんかグループのアイドルの?」
優鈴が聞いてきたので私は頷いた。
「ああ、あのグループが好きなの。私何回か雑誌の撮影でいっしょになったわ。」
「なんだぁ、それなら売られているグッズ全部買ってプレゼントしますよ。」
「黙れチートども」
実弥が怖い顔で睨むのでペチンとほっぺを軽く叩いた。
「先輩たちにそんなこと言っちゃダメ」
「……」
注意しても彼はまだ不機嫌のままだ。
「えー、不死川さんてアイドルにまで嫉妬すんの?意識高。」
「不死川、顔面の良さでお前は張り合えないんだぜ?鏡見よ?」
「全員眠らせてやろうか…!!」
「実弥落ち着いて」
私がなんとか抑え込むがもう一触即発だ。
「……仲良くしてよ。どうしてそんなに喧嘩っぱやいの?そんなにみんなのこと嫌いなの?」
「……嫌いじゃない…けど」
「みんなもどうして実弥を怒らせるようなこと言うの。」
「「「「「すみません」」」」」
またまた似たような状況になり、やっと大人しくなってくれた。
するとまた私が拗ねると思ったのか実弥が話題を変えるように明るく話しかけてきた。
「あ、そうだ、先輩がすごいの持ってきてくれたんだ。」
「すごいの?」
「っ!そうだわ、忘れてた!前田くんから預かっていたのがあるのよ〜!」
「前田くん…」
どこかで聞いた名前だな、と思いつつ首を傾げる。
「いーくんよりすごい?」
「すごいですよ〜、私も着てみましたがもう完全再現って感じで!」
すると天晴先輩は車まで何かを取りに行き、すぐに戻ってきた。何かと思えば風呂敷の包みを手にしていた。
天晴先輩は丁寧に風呂敷からそれを出して掲げてみせた。
「ジャジャーーン!鬼殺隊の隊服よ!」
「……!」
それは懐かしいものだった。
『滅』の文字、黒い上着、そして柱の証のボタン。
「…これどうしたんですか?」
「ほら、木谷くんが今やってくれてる鎮魂の…舞?その儀式で着る衣装なんですって!それで裁縫担当の前田くんが作ってくれたってわけ。」
その説明になるほどと頷く。
……鬼殺隊の衣装を着てやるのか。それにしても随分力の入った出来だ。