第86章 ノスタルジー
適当にすぐそばにあったジュースの缶を握りつぶした。
「あの…それ僕の……」
ペイっと桜くんに投げつけると、彼は難なくキャッチした。
「大の大人がやかましい。静かにしてくれない?私なんのためにここに引っ越したと思ってんの?なんでか忘れたの?ねえ忘れたのかな?」
「忘れてません…」
と、答えたのは実弥。
そう。私は静かな暮らしを求めてここにきた。それなのにこんなに叫ばれてはうるさくてしょうがない。
「誰が仲良いとか前世のこととか正直どうでもいい。あなたたちに思い入れはあるけど私の思い出を出汁にギャアギャアと喧嘩されたらもう嫌いになる。」
「「「「「すみませんでした…」」」」」
五人はそろって私の前に正座した。
「……悲しいから喧嘩しないで仲良くして。」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
その謝罪を聞いたあと私は拗ねてそっぽを向いたまま部屋の隅っこに座り込んだ。
「き、霧雨ちゃーん」
「ほらほらおいちいクッキーでしゅよ」
「ガラガラ音が鳴るおもちゃ」
「離乳食」
みんな控えめに私にアプローチしてくるも、なんでか赤ちゃん扱いしてくる。クソが。この家が赤ちゃん用品まみれだからってそんなことで私が動くと思ったんのか。
てか離乳食って何だよ。それで私が釣られたらどうするつもりなんだよ。
「」
「…」
実弥も話しかけてきたけど無視した。
あ、これどうしよう。コイツも赤ちゃん扱いしてきたらどうしよう。マジで。粉ミルクとか寄越してきたらどうしよう。哺乳瓶持ってたらどうしよう。
そう思いながらも恐る恐る振り返った。
「コンビニの一番くじで引いた限定のいーくん撮り下ろしアクリルスタンド」
「1番好き」
「よっしゃあァ!」
私が飛びつくと実弥はガッツポーズ。私はいーくんのアクリルスタンドを手に持ってウハウハ。
「こんなのいつの間にゲットしたの?」
「…お前が欲しがってたけど自引きできないって言ってただろ。昨日コンビニ行って引いてきたら一発できた。」
「すごいすごい、ありがと」
私が笑ってお礼を言うと、実弥は複雑そうな顔。
「アイドルは気にくわねぇがお前が笑うなら良いかもな」
なんて言って、一回舌打ち。
……そんなこと口にしといてやっぱり嫌いなんじゃん。