第86章 ノスタルジー
そこからはもう、私はただ傍観することしかできなかった。
「はーーーーーーー?霧雨ちゃんを育てたのは私よ!?一つ屋根の下よ!?それにリスみたいに頬張るところなら私は見てたし!!」
「あどけない瞳で私を見上げる様も大変可愛らしく…。私に対して1番心を開いてくださっていました。なんてったって身内!!い!と!こ!ですからぁ!!」
「僕は藤襲山で出会ってそれで柱になって一緒に任務をたくさんした!何なら自他ともに認める相棒だし!!とまともに組めたの俺だけだったし!」
「結婚したし」
「「「「今生しか付き合いのない奴は黙ってろ!!!」」」」
最後に実弥がボソッと口にした一言に全員が食ってかかる。…流石に可哀想。
「僕は2人っきりで柱だった時もあるもんねーー!!みんなすぐいなくなっちゃうんだから、柱が足りなくて2人だったんだよ!2人!!2人っきりでいろんなところ行ったもん!!あと、今生では霧雨さんの家は僕の家の裏にあるんだから!」
「すぐいなくなったのはごめんだけど!!」
「すぐいなくなったのは申し訳ないですけれども!!」
「僕はちゃんと柱になって2人を助けただろーーー!!!」
……もしかして、これすごく恥ずかしいのでは?
みんな、いかに私と仲が良いのかをただひたすらに話し合っていた。
「そもそも霧雨ちゃんと最初に出会ってるのは私ですし!」
「イッチバン可愛い霧雨さんを知っているのは僕なのー!!」
「霧雨ちゃんのことを1番見てきたのは私よ!!」
「1番仲が良いのはこの僕だッ!!!」
「だから俺が!!」
俺だ私だ僕だの散々な言い合いの果てに、みんな段々手が出るようになった。さらには実弥まで参戦する始末。
せっかく泣き止んだご機嫌気味の赤ちゃんがまた泣きそうになるのを見て、私はグッと手のひらを握った。
「イッテ!!おい誰だ今グーで殴ったやつ!グーはなしだろ!!平手打ちにしろよ!!石投げるのも無しな!!」
「今俺の足を踏んだやつぜってぇゆるさねぇ!!墓の下まで追いかけるぞ素直に名乗りでろ!!!」
「良い加減にしろッ!!!!!!!」
私が怒鳴ると、ギャアギャアとうるさい男どもはピタリと黙り込んだ。