第86章 ノスタルジー
「きーりーさーめーちゃんっ」
ツンっと私の頬をつつく。しばらくされるがままに受け入れていたが、実弥が横から入ってきて止めた。
「まっ、そんな目で見なくてもいいじゃない。」
「……別に変な目なんてしてません」
実弥はムッとした表情で食い下がった。うん。変な目っていうか敵意を感じるんだよね。怒りっぽいのが彼らしいんだけど。
でももう感情も読めないから、本当にそうなのかはわからないんだけどね。
そんな実弥に睨まれながらも、天晴先輩は苦笑しつつ話を続けた。
「…いやぁ、ついね?なーんか感傷的になっちゃうのよ。」
「感傷的?」
「だってぇ、小さくてぷにぷにだった霧雨ちゃんが結婚してママになったのよ?私泣きそうなくらいなんだから。
ああ、もうあんな風に柔らかなもちもちぷにぷにの霧雨ちゃんのほっぺたが二度と触れないんだと思うと…。」
「…お前、ちょっと変態チックだぞ。」
先輩は珍しく春風さんに注意されていた。
「…もちもちぷにぷにじゃないといやですか?」
「いやだ、もうっ!今のあなたが1番好きよ!!」
先輩はそう言って私を抱きしめた。
…うふふ、そんなこと言われると嬉しい。
「は?は???なんでそんなに仲良さそうなの?ていうかもちもちぷにぷにって何だよ。」
「前世で初めて会った頃、すごくおチビさんでぷにぷにだったのよ!」
「……それじゃあ太ってたみたいじゃないですか。」
「確かに、昔から細身なのにほっぺはもちもちでしたね。」
すると春風さんがドヤ顔でそう言ってきた。
…まあ、そうだな。前世の話になるけど彼は鬼殺隊の誰よりも最初に出会ってるからな。うん。
「何それ。そんな子供っぽい霧雨さんよりお姉さんの霧雨さんの方がずっと素敵だったもんね!定食屋でたまご丼と天丼とカツ丼食べてニコニコ笑ってるの本当にかわいかったし、リスみたいに頬張ってても美人だったよ!!」
「…なんでそんなこと覚えて……」
そこでハッとして言葉を止めた。
…なんだかこの場にいる全員様子がおかしい。