第86章 ノスタルジー
首がすわっていない新生児なのでしっかり支えつつ丁寧にやったのだがまだ泣いて暴れている。
「……私はこれで泣き止んだっておばあちゃんが言ってたんだんけどな。」
「子守唄とか音の鳴るおもちゃとかさぁ、もっと色々あるでしょ。」
「うた…」
……そんなこと言われてもな。
「ひ…『ひとつとや、ひとよあければ……にぎやかでにぎやかで』」
「なんでここでかぞえうた」
「だってこれくらいしか歌えないし」
私はすっと顔をしたに向けた。
「やっぱり私には向いてない…」
「ああああああああああああほらほら他にもあるじゃん…!!他にも…ねぇ氷雨さん!!!」
「あ、あああああ、ほら、私が持ってきたものの中に鳴り物のおもちゃがありますよ。これとかどうです?」
春風さんが取り出したおもちゃを受け取る。振ってみると鈴が入っているのかチャリンチャリンと音が鳴った。
「……〜うう、うー…」
すると怪獣みたいに泣いていたのが小さな泣き声になった。
そしてまだ機嫌が悪そうではあるが一応泣き止んだ。
「ほーら、泣き止んだじゃん。」
「よ、よかったですねぇ!」
赤ちゃんがまた泣き出さないように2人ともコソコソ声でそう言った。…まだまだ不機嫌そうだけど。
「あ、不死川さん帰ってきたよ。」
私は赤ちゃんを布団の上に寝かせた。また音を鳴らすと、泣かずに大人しくなった。
そして玄関あたりが騒がしくなったかと思えば、中から実弥と天晴先輩、優鈴が姿を見せた。
「あらー、桜、春風!来てたの!」
「ええ。ちょっと大雨対策してました。」
「マジすか。すみません…。」
「おう。この仮は百倍にして返せよ。」
桜くんは自信満々に言った。
そして荷物を片付けた頃、天晴先輩がいそいそとこちらへやってきた。