第5章 街へ
目は口ほどに物を言う。
が、右隣を歩く煉獄さんのそれを確認する為には、彼の顔を此方に向ける必要がある。
そもそもの話、煉獄さんの唯一残された右眼とは普段から視線の合わない事が多い。
つまり、結局のところ見えようが見えなかろうが、彼が何を思って私を下の名前で呼ぼうとしているのかなんて、皆目検討もつかないのだった。
つらつらとそんな事を思いながら黙って煉獄さんの横顔を眺めていると、彼がクルリと此方を向いた。
私を見下ろす煉獄さんの眉は若干ハの字になり、何となく肩も落ちている。
「駄目だろうか?」
「え、あ、いえ・・・駄目じゃないです」
「そうか!ありがとう!」
私の返事に煉獄さんのしょんぼりとしていた空気が、一気にパァーッと明るくなった。
「名前」
「は、はい?」
「名前!」
「・・・何ですか?」
「名前!良い名だな!」
「ありがとう、ございます?」
「うむ!」
あれ?
彼はこんなに表情豊かな人だっただろうか?
破顔する煉獄さんを見ていたら、酷く胸が騒いで仕方がない。