第9章 修行
いつもはキリリとしている眉を下げ、しゅんと肩も落とした姿は保護欲を誘い、触り心地の良い頭を名前は只管撫で続ける。
「杏寿郎さん、さっき言ってくれましたよね。最後まで生きる事を諦めないって。それで充分です」
「名前・・・」
「あとは、私が杏寿郎さんを守りますから!」
「は」
「今よりもっともっと力を使い熟して、鬼なんかケチョンケチョンに出来る位に強くなります!」
名前は杏寿郎に握り拳を突き出して、任せて下さいと歯を見せて笑った。
「よもや・・・」
瞳を一瞬キョトンと瞬かせた杏寿郎は、それから苦笑する。
全くもって現実味の無い話だと言うのに、何故か名前の得意気な顔を見ていたら、本当にどうにか出来てしまえそうだと思えるから不思議だ。
「えーと、なので杏寿郎さん・・・あの、わ、私も杏寿郎さんがす、す、す、好きでふっ!・・・いっ・・・いひゃい、噛んら・・・うぅ」
力み過ぎた告白で舌を噛んだ名前は、涙目で口を抑える。
何とも様にならないその姿に、杏寿郎は思わず吹き出した。
「フ・・・ハハハハハ!」
名前は自分の失態を笑う相手に、ジトッとした視線を向ける。
「ハハ・・・す、すまな・・・ぶっ・・・くっ・・・ワハハハハハ!」
「もーっ!笑い過ぎですよっ!」
漸く痛みが治まった名前は目を三角にして、笑い転げる杏寿郎をペシペシと叩いた。
杏寿郎は笑い過ぎて滲んだ涙を指で拭うと、振り上げられた名前の手を掴み、自分の方へと彼女の身体を引き寄せる。
「名前、ありがとう」
杏寿郎は瞳を細めて柔らかく微笑むと、名前のさくらんぼの様な唇に自分のそれを重ねた。