第5章 街へ
組紐を指差した名前が杏寿郎の色だと言って笑う姿を目にした時、杏寿郎は唐突に自分の名前に対する気持ちを理解した。
見舞いと称して名前の元へ何度も足を運んだのは、自分を助けようとした彼女の事を知る為だった。
けれど、いつの間にか自分は彼女に惹かれていて、だからこそあの色を身に纏う彼女を想い描くだけで、こんなにも心が満たされている。
「この先にある店の羊羮がうまい!土産に買って行こう!」
そう言って杏寿郎は繋いだ名前の手を引いて、意識的にゆっくりと歩いた。
「あ、あの!煉獄さん、その組紐とリボンの事なんですけど!」
「うむ!店の主人の言う通り、あれは君にとても良く似合う!」
「いえ、そうじゃなくて・・・」
名前の言いたい事は分かっていたが、杏寿郎は彼女に金銭を支払わせるつもりは無い。
「時に苗字、君の名は確か"名前"だったな」
「そうですけど・・・?」
「ならば君の事を・・・名前、と呼んでも構わないだろうか?」
「・・・・・・は?」