第5章 街へ
「・・・」
そんなに見ていたつもりはなかったけれど、どうやらチンピラ男の気に障ったらしい。
こういった輩は下手に刺激しない方がいいと思い、敢えて黙ってやり過ごそうとしていたら、向い側に座る煉獄さんの手に持っていたグラスからバキッと破砕音が鳴った。
「は・・・え、煉獄さん!?コ、コップ割れて・・・えええええ!?手、手ぇ怪我してないですか!?」
私は慌てて立ち上がり、身を乗り出して煉獄さんの手を掴んだ。
煉獄さんは剣士なのだから、刀を持つ手に怪我をしては大変だと思い、手首から指先まで小さな傷一つ見逃せないと念入りにチェックする。
「・・・良かった、何処も切れて無い」
普通は硝子の破片で傷付きそうなものだが、硬く分厚い皮膚の手の平や指にこれといった傷は見当たらなかった。
ホッとして顔を上げると、何故か煉獄さんがこちらを凝視していた。
「よもやよもや・・・」
「煉獄さん?」
「う、む・・・すまん!うっかり力を込め過ぎてしまったようだ!」
アルミ缶なら兎も角、硝子で出来たコップが割れるなんて、この人どれだけ力が有り余ってるんだろう。