第4章 ギフト
ベッドの脇にある椅子に腰掛け、杏寿郎は眠る名前の顔を眺める。
無限列車の任務で負った怪我の治療中、自力で動ける様になってから自宅療養に切り替わる迄の間、こうして彼女の目覚めを待って、度々彼女の病室に足を運んだ。
あの時は未だ名前の名前すら知らなかった。
名前は時戻りの力で杏寿郎を"死"から呼び戻したが、あの繰り返された時は杏寿郎自身の中で、今も尚燻っている。
死んで欲しくないと懇願する名前と、死ぬ事を躊躇わない杏寿郎。
杏寿郎にとって己の命とは惜しむべき物ではなく、他者の為に擲つべき物なのである。
『死なないで』
『死なないで、杏寿郎!』
俺は己の責務を全て果たした!
母も、立派にできたと言ってくれたのだ!
『嫌だ・・・嫌だ!!』
よもや・・・!
もう十分ではないか、これ以上俺に何を求める?
『良、かった・・・やっと・・・助け、られた・・・』
君は何故、俺が生きる事を望むのだ?
「いつか、君から答えを聞ける日が来るだろうか」
眠る名前の頭をそっと撫でると、柔らかな黒髪がサラリと流れた。