第4章 ギフト
ふと、杏寿郎は懐にある存在を思い出した。
名前を運ぶ際に仕舞い込んだそれを取り出してみると、少し巾着袋の端がヨレただけで中身は特に問題無さそうだ。
時戻りが起こる前、善逸と言い争う伊之助の足がこの巾着袋を踏みつけていたが、あれでは先ず間違いなく、中身の菓子は原型を留めていない筈で。
菓子を口にした名前の顔を思えばこそ、あの時の杏寿郎にとってそれは残念な結果であった。
一度は粉々になってしまった物だが、今は幸い時戻りのお陰で無事に杏寿郎の手にある。
もう一度手渡せば、またあの顔が見れるだろうか。
「さあ、眠っている女性の部屋に、殿方が何時までも長居をしてはいけませんよ」
しのぶに促され、名残惜しげに炭治郎と善逸が部屋を出て行く。
それに続いて部屋から出ようとしたしのぶは、その場から動こうとしない杏寿郎に声を掛けた。
「煉獄さん?」
「・・・」
しのぶの言葉は全くその通りなのだが、何故か離れがたい。
「まったく・・・」
しのぶは杏寿郎の様子に溜め息を吐きつつも、糞真面目なこの男が眠る女性に無体を働く事も無いだろうと思い、その場を後にした。