第3章 鬼殺隊と鬼
「っ・・・ごめっ・・・なさ・・・っ」
隣で泣きながら謝り続ける名前を見ていたら、自然と手が伸びた。
杏寿郎は彼女の震える背中を優しくトントンと叩きながら苦笑する。
「苗字、そんな風に泣かなくていいんだ。謝る必要も無い」
懐から手拭いを取り出した杏寿郎は、名前を抱き起こして涙を拭ってやる。
ふと、幼い頃の泣き虫な弟の千寿郎の事もこうしてよく慰めてやったなと思いつつ、弟とは違った感触のサラリとした黒髪の頭を撫でた。
「君が何かを隠している事は知っていたが、よもやそれがこんなにも君の心に負担を強いていたとはな」
拭っても拭ってもポロポロと溢れ落ちる透明な雫は、あの日朝焼けの中で見たものと同じで綺麗だと思う。
初めて出会ったあの日から今迄、彼女の澄んだ瞳が悪意に染まる事は一度も無かった。
自分よりも小さく肉刺の一つも無い柔らかな掌に手拭いを持たせ、杏寿郎は名前を安心させる様に微笑んだ。