第2章 代償
自分の名を名乗りながら私は首を傾げた。
事故に巻き込まれて怪我をしたなら、普通は病院に運び込まれるのではないだろうか。
この場所は病院とは違う様な気がする。
「煉獄さんから名前さんの事をくれぐれもと頼まれておりましたので、順調に回復されて良かったです」
「煉獄、さん・・・?」
「貴女を助けた方ですよ。彼もかなり重傷だったのですが、4日前にご自宅へ戻られました。此方で療養中の間も随分と貴女の事を気に掛けておいででしたよ」
「名前さんは煉獄さんの事をご存知ないのですか?」と訪ねられるも、首を振る。
その後も色々と聞かれたが、何故か頭の中が真っ白で殆ど答えられなかった。
自分が何者なのか、列車で何処から何処へ行こうとしていたのか。
「分からない・・・何も」
この時になって漸く私は、名前以外に自分の事が何も思い出せなくなっている事に気付いて愕然としたのだった。