第2章 代償
自分でもどうしてこんなに名前の事が気になるのか、はっきりとした答えが出ない。
「うーむ・・・」
何故か自分の名を知っていて、おそらくはあの奇妙な時戻りを引き起こした人物である。
彼女の驚異的な力は目を見張るものがあったし、それに救われたのも事実。
けれど、彼女のあの無謀ともいえる行動には、一体どんな理由があったのだろうか。
会った事も無い自分を助ける為に、命を懸けた彼女の心は記憶と共に失われ、最早知る術が無い。
「炎柱様?どうかされましたか?」
腕を組んだまま、杏寿郎は一つ息を吐いて宙を見た。
「・・・知りたい、と思ったのだ」
ポツリと声にした瞬間、その答えは出た。
そう、自分は知りたいのだ。
苗字 名前 という人間の事を。