第9章 修行
「・・・だが」
ガシッと大きな手が私の顔を両サイドから挟む。
「ひょっ!?」
頬が潰れてひょっとこの様に唇が突き出し、妙な声が出た。
そのまま杏寿郎さんに引き寄せられて、ジトッとした目で睨まれる。
「君は強くなりたいと言うが!それならば、何故俺を差し置いて父上に師事を乞うのだ!」
ん?
「君、今まで俺にはその様な話しを一切しなかっただろう!」
んん?
「瞑想の件も然り、何故俺に言わないんだ!」
「あにょ、ひょぉじゅりょーひゃん・・・」
「何だ!」
「ひょっひょほにょひぇをはにゃひへぇ?」
「む?・・・何を言っているのか分からん!」
誰の所為だと眉を寄せ、顔を放せと彼の腕を軽く叩いた。
力の緩んだ手からスポンと顔を引っこ抜き、私は頬をひと撫でする。
「杏寿郎さん、もしかしてさっきからそれで怒ってたんですか?」
「怒っていない!ただ、君の行動に疑問を感じただけだ!」
「えぇ・・・」
いや、貴方それ普通に怒ってますから。
額に思い切り青筋が浮いてますし。
まあでも、それが理由なんだとしたら私は、杏寿郎さんに頼っても良いのかな。
「その・・・杏寿郎さんはいつも忙しそうだから、これ以上負担を掛けたくなかったんです。本当は私だって・・・杏寿郎さんに、教えて欲しかった・・・」
自分で言っておきながら、段々恥ずかしくなってきて俯くと、声もボソボソと小さくなっていく。
「あの、杏寿郎さんが迷惑じゃなかったら、ええと・・・私の、先生になってくれませんか?」
でも、本当はそう思ってた。
出来るなら、杏寿郎さんに教えて欲しいって。
チラッと杏寿郎さんの様子を伺えば、彼はポカンとした表情で私を見下ろしていた。
「や、やっぱり今のナシでぇっぐえっ!?」
右手を付き出してパタパタと振った瞬間、杏寿郎さんに力一杯抱き締められた。