第9章 修行
こんなへなちょこな私の覚悟なんて、目の前に居る人の志しに比べたら屁みたいな物だけれど。
自分の思いが少しでも伝わって欲しくて、膝に置いた手を握り締めた。
そういえば、前にもこんな感じの話しを杏寿郎さんとしたな。
だけど話しの途中で時戻りが起きて、私は何故か神社に移動してしまったから、最後まで話せなかった。
あの時と今では色々と違う。
少しの間だけど鬼を直接目にして、戦いの場の空気を吸って、この世界の未来を見た。
もう、自分一人だけのうのうと安全な場所で見ているなんて出来ない。
「杏寿郎さん、私頑張りますから。どんなに辛くても弱音を吐かずに前を向いて行ける様に努力します」
私は、私の大切な人達を、一つでも多くの幸せを壊されない様に、守りたい。
「どうか私を貴方達と共に戦わせてくれませんか」
緊張の余り、力一杯握る手の内に汗が滲み、口の中はカラカラになった。
瞬きもせずに杏寿郎さんの事を見つめ、やがてユラリと視界がぼやけた時、不意に杏寿郎さんが動いた。
彼は元々近かった距離を膝立ちになって詰め寄ると、握り締めていた私の手を掴む。
「!」
そのまま腕を引かれた私は、杏寿郎さんの胸に飛び込む様な形で倒れ込んだ。
慌てて身を起こそうとするも、背に回る腕の力が強くて敵わない。
「名前」
耳元を低く心地の良い声が掠める。
身動ぎすると抱き締めてくる腕の力が増して、少し苦しい。
「すまない。俺は君の事を見誤っていたみたいだ。君の心は俺が思っていたよりもずっと強い」
「え?」
「俺の方こそ宜しく頼む。共に戦おう名前」
抱き締める力が弱まりそこから抜け出すと、私を見下ろす杏寿郎さんと目が合った。