第9章 修行
「名前」
「っ!?」
耳元で名を呼ばれてビクッとなる。
首だけ振り向くと、杏寿郎さんが真後ろに立っていて驚いた。
「話をしよう」
「え」
場所を変えると言って杏寿郎さんは私の身体を担ぎ上げ、ズンズンと歩き出す。
急展開に反応出来ないでいると、何故か憐れみの視線を向けてくる千寿郎君と目が合った。
どんどん二人から遠ざかって行くのを慌てて止めようと、脚をバタつかせて杏寿郎さんの肩を叩く。
「ちょっ・・・ま、待って下さい、杏寿郎さん!未だ私、槇寿郎さんと話が済んでなくて・・・!?」
ギロッと此方を見上げる焔色と目が合った途端、思わず動きを止めて口をつぐんでしまい、そのまま客間へと連れて行かれた。
ちょっと前も不機嫌そうだった(理由は不明だし本人は否定していた)けど、今程じゃなかったと思う。
気付かない内に、何か彼を怒らせる様な事をしてしまったのだろうか?
向かい合って座ると杏寿郎さんからの圧が強く、私の視線はウロウロ彷徨い、やがて斜め下へと落ちて行く。
すると、杏寿郎さんは何かを逃すかの様にフー・・・と長く息を吐いた。
「名前」
「は、はい」
面と向かって名前を呼ばれては、そちらを見ない訳にはいかない。
ゴクリと唾を飲み、恐る恐る杏寿郎さんの様子を伺った。
「君は何故強くなりたいんだ?」
嘘偽りなく話して欲しいと恐ろしく真剣な表情で問われ、私は強さを求める理由を答えた。
与えられたこの力を制御出来る様になって、皆の役に立ちたい。
この先の未来で、少しでも犠牲を減らしたい。
「鬼殺隊の人達の覚悟は知っていますけど、それでも私は皆に死んで欲しくないんです。助けられるなら助けたい・・・その為には、私自身が強くならないと駄目なんです!」