第9章 修行
杏寿郎の頭を撫でながら、名前は槇寿郎と千寿郎のやり取りを聞いていた。
千寿郎の覚悟が痛い程に伝わってきて、胸が苦しくなる。
私が、物語を歪めてしまったから・・・。
千寿郎の運命を変えてしまった、と名前は唇を噛む。
槇寿郎が息子達と向き合ってくれた事で、これから漸く幸せに暮らしていけるんだと嬉しく思っていたのに。
「杏寿郎さん・・・鬼舞辻を倒す為なら、貴方も痣の発現を望みますか?」
自分で聞いておきながら、答えを聞きたくないと思ってしまう。
杏寿郎の頭を撫でていた手を引っ込めて胸元でキュッと握れば、それを追いかけて大きく温かな手が重ねられた。
「そうだな。奴を討ち取るにはどうしても痣が必要だ。痣が出れば刀を赫刀にする事も可能だろう。だが、記憶の戻った君は俺に長生きをしろと言っていた。自ら命を投げ出す様な真似をすれば絶対に邪魔をしてやる、とも」
その時の事を思い出しているのか、杏寿郎は目を閉じて微笑を浮かべる。
「約束は出来ない。俺は俺の責務を果たさねばならないから」
「・・・そう、ですか」
何とも言えないやり切れなさに、名前は眉をハの字にして項垂れた。
「それでも出来得る限り、俺は生きる努力をしよう。最後まで諦めずに足掻こうと思う。だからそんな顔をしないでくれ」
「!」
杏寿郎の言葉に名前はハッとする。
困った風に眉を下げた杏寿郎が、焔色の瞳をほんの少し細めて名前を見つめていた。
多分それは杏寿郎なりの精一杯の譲歩で、名前の無理な願い事に彼は応えようとしてくれている。
「君が悲しそうにしていると、俺も辛い」
頬に伸ばされた手に顔を寄せると、ポロリと一雫の涙が零れた。