第1章 死なせない
震える腕を無理やり持ち上げて涙を拭い、その腕に力一杯噛み付くと、口の中に血の味が広がった。
鋭い痛みに顔をしかめつつ口を離すと、血の滲んだ歯形が腕に浮かび上がった。
もう片方の腕もそうやって噛み付きながら、弱い心を戒めていく。
何故自分が此処に居るのか、何故あんな力が出せたのか、全然分からない。
腕に噛み付いて無理矢理震えを抑えても、恐怖は消えない。
だけどこの力があれば彼を救えるかもしれない。
攻撃が当たらないなら、体でぶつかっていこう。
今度こそ彼の死を覆すんだ。
「私も貴方みたいに心を燃やせるかな・・・」
向けた視線の先、鬼と対峙する杏寿郎を見て呟くと、震えの残る体で地を蹴った。