第9章 修行
杏寿郎さんの後ろを付いて歩くと、何となく見覚えのある場所に着いた。
「千寿郎、今から日の呼吸の型を一通り行う。先ずは目で見て覚えなさい」
「は、はい!」
杏寿郎さんから少し離れた位置に、私と千寿郎君は並び立った。
杏寿郎さんは目を閉じて刀を構える。
「円舞」
振り下ろされた杏寿郎さんの刀が、美しい弧を描いた。
「碧羅の天」
ヒュンッと刀は日輪の様に大きく円を描く。
「烈日紅鏡」
刀が左右対称に素早く動き、数字の8を横にした無限を描いた。
そのまま、灼骨炎陽、陽華突、日暈の龍・頭舞い、斜陽転身、飛輪陽炎、輝輝恩光、火車、幻日虹と、杏寿郎さんは日の呼吸の型をなぞり続ける。
「凄い・・・」
目の前に居るのは杏寿郎さんなのに、何故か縁壱さんの姿と重なっていく。
恐らく、それだけ杏寿郎さんの動きが正確なのだ。
それこそ足の運びから手首の角度まで、一部の狂いさえ無い精密さで彼は型をなぞっている。
不思議な事に、剣術どころか刀を握った事さえ無いというのに、何故か私にはそれが理解出来た。
「炎舞」
刀は最後に大きな半円を連続で縦横に繰り出され、止まった。
杏寿郎さんは一番最初の構えに戻ると、刀を鞘に戻して目を開ける。
「今のが日の呼吸の十二個の型だ。これらは繋いで繰り返す事で円環を成し、十三番目の型となる。つまりは始まりの剣士である縁壱殿が編み出した、鬼の始祖を殺す技だ」
ごくりと喉を鳴らしたのは私か、それとも千寿郎君か。
「あ、あの・・・兄上は、日の呼吸が使えるのですか?」
「いや、俺は日の呼吸は使わない」
「でも兄上、兄上は型を全部・・・!」
「型をなぞるだけならば誰でも可能だ。そこへ呼吸を加えると話が変わってくる」