第9章 修行
私が悶々と考えている間に、二人は着々と話を進めて行く。
「時に千寿郎、お前に頼んでいた炎柱の書の件なのだが・・・」
「分かっています。もう必要ありませんね。兄上の方が余程お詳しい」
「う、む・・・任せておきながら、すまないな」
「いいえ兄上、僕もこれから忙しくなりますので、何の問題もありません」
千寿郎君は杏寿郎さんから少し離れて向き合い、ピシッと姿勢を正した。
「兄上、日の呼吸の伝授、宜しくお願いいたします」
正座したままスッと頭を下げた千寿郎君に、杏寿郎さんは一瞬だけ動きを止めた。
じっと弟の姿を見つめ、杏寿郎さんも表情を引き締める。
二人の纏う空気は一転して、仲の良い兄弟から師弟というピリッとしたものへと移り変わった。
「日の呼吸は始まりの呼吸と言われている。適性があると言えども、炎の呼吸よりも遥かに肉体的負担が大きい。それ故お前には、今まで以上に厳しい鍛練を課す。
千寿郎・・・精一杯励みなさい」
「はい!」
「蝶屋敷には、同じく日の呼吸の使い手である竈門少年が居る。彼は未だ自分の使う呼吸の正体に気付いていないが、お前の先達となる隊士だ」
「竈門・・・ああ、ヒノカミ神楽の」
「うむ。折を見て此処へ連れて来ようと思う。きっと彼から学ぶものがあるだろう」
そうだ、炭治郎君。
彼にヒノカミ神楽が日の呼吸だと伝える必要があった。
でもどうやって伝えよう。
「さて、今から少しだけ稽古を付けるとしよう」
「はい兄上!」
刀を手にすっくと立ち上がり、縁側へと歩き出す杏寿郎さんと千寿郎君。
これは私も付いて行っていいのだろうか。
座ったまま二人を見ていたら、私の視線に気付いた杏寿郎さんが手招きする。
「名前、君もおいで」
「は、はい」